第849号 2014年12月8日「日報」/「足袋 No.11」

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「日報」
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『あなたの店で黒留袖の仕立をしてもらったのだが、紋が付いていない。』という問い合わせを当店の係の者が受けた。
黒留袖は、表紋で5個の紋を入れる。私がそのお客様に電話を掛け直し、事情を聞いた。金沢へ嫁いだ娘さんが結婚相手からいただいた、別誂えで描いた品だという。そこまでされる方なら、嫁ぎ先の家紋を付けて贈るであろうと思った。
当店の係は、台帳を調べ、注文を受けた時の日報も調べて私に報告してきた。裏生地、比翼(ひよく)地、加工代、仕立代は伝票に上がっていた。その日の出勤は、私と女性従業員二人、そのうちの一人は和裁経験者だった。当店で加工をしているという報告を受けた時点で、絶対紋は描かれていたはずだと確信した。第一、別誂えで絵紋様まで描くような方が、紋を坊主で抜くだろうか?菱紋の方であれば、菱紋で抜き、そこに紋を描くであろうと考えたからだ。
4年前の平成22年5月に仕立をし、すでに一度着用されているという。お客様に再度電話をした。『絶対紋は付いているから、もう一度調べてください。』と。夕方、電話があった。もちろん紋は付いていた。良かった。
『紋は付いています。』と即答できなかったのは残念だったが、日報がきちんと残されており、その日の対応が予測できたことがとても嬉しかった。
毎日の出来事を記録するという当たり前のことを続けることは、簡単なようで意外と難しいものだ。だが、この一件で、その日報の重要性を再認識できたことは良かった。
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「足袋 No.11」
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きもの業を40年もやっていると、既成概念が強く、お客様の便利さよりも、足袋は綿でコハゼが付いているものだと思ってしまう。たまに、大人用でコハゼの無いソックスのような品がないかと尋ねられても、『そんなおかしなものは・・・』という気持ちから探すことさえしなかった。しかし、このたび、どうしても茶系のソックス調の品がほしいという要望があったので調べてみることにした。
自分自身が毎日着物だから、そういう気持ちにならない。それがいけないのだ。洋服を着用した時は、私もソックスだ。洋服を着ているのに足袋を履いている年配の方を見かけたことがある。それには、どこか不釣り合いな感じがした。子どもの頃から足袋に慣れ親しんでいる方は、足袋のほうが履いた時の感触が良いのだろう。
『着物はこういうものだ!』方式ではいけない。事実、子どもの足袋はソックス型が多い。そんな子どもが成長したら、ソックスが当たり前と思うのは当然。コハゼの止め方がわからないと答えるのが普通になる。こうやって新しい品に変わってゆくのだ。
知らないうちに、既成概念に縛られてしまっている。新しい物好きの発想で考えるのも悪くない。

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