第757号 2013年9月27日「洗い張り」

757私がこの仕事に入った頃は、まだ、常に着物を着用されている方がたくさんいた。『洗い張り』をして、仕立直しをし、着用される方が多かった。
常着の代表がウール素材の品だったが、すべりが良くて軽いシルクウール着物もよく売れた。絹物だと、裏地を付けるので仕立代も高額だが、昭和40年代後半になると、高度成長で世の中も安定し、着物にも贅沢するようになり、紬や小紋がよく売れた。
毎日着用していると、立ったり座ったりで、ヒザの当たる部分などはどうしても痛んでくる。洗い張りをすると、組織が元に戻り、汚れ等も取れ、新品同様になる。
仕立直しの注文を受け、着物を預かると、縫い糸を解いて一反の布にするのだが、その仕事をよく手伝った。祖母は、いちいち糸を切るのではなく、縫い目から糸を引いていた。すると、す~っと布が2枚に分かれて解けてくるのだが、私はそれがなかなか出来ず、ハサミを使ってばかりいた。結果、切った糸がたくさん布に残り、その糸くずを取るのにまた時間が掛かった。よく着用されるお客様は、10年もそのままにするようなことはされないので、解きも簡単(糸を引きやすい)だが、着用されていない方の着物は、糸も弱っていて解くのに時間が掛かった。
現在は、洗い張りをされる方も少なくなった。代替わりをして着物が必要なくなると、『引き取ってくれないか?』と問い合わせてくる方もある。そんな電話が多くなった。この業界で商いをする身として、悲しい気持ちになる。

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