第954号 2020年10月25日「情操」

『情操』という言葉の意味が解らず、調べてもらった。『情操教育』という言葉は聞いたことがある。意味は、心を豊かにする教育ということらしい。美しいもの、優れたものに接して感動する、情感豊かな心ということだ。簡単に言えば、『きれいだ』『かわいい』『美しい』『カッコいい』と思う心を養うこと、と考えればよさそうだ。
我々の仕事は、そういうものに囲まれた仕事だ。センスや好みは人それぞれ。我々には、その人のセンスや好みを見抜く力が必要となり、その力がある人が優れたベテラン販売員となる。主張の強い方に対しては、その方の言うとおりに合わせていけばよいが、そうではない人に対しては、取りあえず、従業員の判断で商品を提案することになる。色、柄、予算、サイズ等を聞きながら提案していく。最近は、あまりすることはないが、私が丁稚(でっち)奉公していた時代は、着物の柄の説明ができるように指導され、例えば縁起担(かつ)ぎとなるような柄であれば、その説明をしたものだ。すると、『和』に興味のある方は、どんどん着物にのめり込んでいき、着付教室に通ったり、茶華道に興味を持ったり、歌舞伎を見に行ったり、と着物を着るために習い事を始める方もあった。着物が、ただ着用するためだけの品であれば、洋服のように、特にTPOを考えて着ることはない。現在、着物を着ておられる人たちは、普通に洋服を着る時と同じような『常着』として着ている人は少ない。目的を持って着物を着用する人がほとんどだ。冠婚葬祭で着られる場合は、着付のほかにヘア・メイクも常とは違う『出で立ち』にされる。
時代の新化によって装う物が変化し、環境の変化で、人が自然に直接接することが出来なくなり、大きなドームのような空間で生きなければならなくなった時、衣装はまったく必要がなくなる時が来るかもしれない。素っ裸に近い生き物の世界に戻るかもしれない。もちろん、そんな空間は、何もかもがコントロールされ、衣だけでなく食も住もすべてが今とは違う世界。いつかそんな時が来るだろうか?

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