第877号 2015年8月19日「着たくなる日 No.5」

877『着物業界にいながら、商品の変化に気づかないとは、我ながら情けない』と、この夏、気づかされた。
浴衣が若者に人気で、よく売れているというのは好ましいことなのだが、そのほとんどは安価なプレタ(仕立て上がり)浴衣。柄は、ほとんどが花柄。トンボ文様もあるにはあるが、どの商品を見ても、よく似た柄ばかり。昔ながらの粋な伝統柄で染め上げられた品など、めったに見かけない。染も※注染(ちゅうせん)ではなくプリントだ。
私が、この業界に足を踏み入れた頃、まずは伝統柄を覚えることから始めた。柄の種類を覚え、接客時に、その商品の柄を説明できることに商売人としての誇りのようなものを感じた。先輩から教えてもらったり、業界紙を購入しては、染め方や柄の名前を覚えたものだ。
『青海波(せいがいは)』という文様は、重なり合った半円で波を表している。波は永遠に続くもの。『穏やかな生活が、ずっと続くようにとの願いが込められているので、子孫繁栄の意味も含めて、とても縁起の良い柄なんですよ。』と勧めたりもした。その柄の『いわれ』なども説明することが商いの基本と考え、必死に覚えた。
それは、現在でも通じることだと思うのだが、従業員の接客を見ていても、そんな会話は出てこない。『カッコいいですね。』とか、『いい色ですね。』くらいだ。残念ながら、柄や生地、染め方の勉強をしてこなかったから説明できないのだ。我々が教えてこなかっのも悪いのだろう。
伝統柄が消えていく。もっと我々年代の者たちが、若者が興味を持てるよう教えていかなくてはいけない。それが、『着たくなる日』に繋がっていくのではないだろうか?そう感じた。
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※注染(ちゅうせん)
染色する場所の周囲に特殊な糊で土手を作り、その中に染料を注ぎ込む技法。
何枚も重ねた生地の上から染料を注いで染めることから、このように呼ばれるようになった。

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