第978号 2022年11月30日「祖父 奥田正直」

978正直屋の創業者である祖父は『正直に勝る商いはない』という家訓を残した。私と同じように糖尿病で白内障、父に代を譲ってからも、日々、着物姿で店頭に座っていた。
来店されたお客様の声を聞き、『〇〇さんだね』と答えた時があった。自分のお客さんの声はわかるんだ…とビックリした。その頃、すでに目はボヤーッとしか見えておらず、お客様を見て、誰なのか判別することはできなくなっていた。
当時、私は大学生で、祖父母と同じ別宅に住んでいた。私はおばあちゃん子で、何かと祖母に甘え、祖母の近くにいることが多かった。小学生の頃は、祖父によく叱られた。毎日、祖母から愚痴を聞かされていたこともあり、祖父に対して良い印象は持っていなかった。
その祖母が、祖父の葬式の折に大泣きをしたから驚いた。あれだけ悪口を言っていたのに…逆の愛情表現だったんだ。当時はわからなかった。
祖父の死後、遺品から、いろいろな役職に就いていたんだなぁ、とか、お人好しだったんだなぁ、とか、私の知らない祖父の別の姿を垣間見ることができた。祖父母は、3人の子どもを育て上げ、戦争という暗く厳しい時代を生き抜いてきた人たちだ。家訓の重さを思う。

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