第898号 2016年7月11日「ボヤキ No.2」

先日、オーダーメードを専門にしている紳士服店の方と話をする機会があった。
このような専門店では、現在でも、仕立てているのはすべて日本の職人さんなのだそうだ。オーダーメードの洋服は、その人の体にピッタリ合うように仕立てなくてはいけない。細かい曲線の縫い合わせも、熟練した職人の手作業によるものだ。
安価な既製品が出回るようになり、注文も少なくなったそうだが、オーダー品は芯地とか裏地も既製品とは違うし、着心地も良く、もちろん直しもできるから、高価なだけのことはある。
さて、わが着物屋の現状はどうかというと、安価な品の仕立物は、仕立代金の安い中国やベトナムに出すという流れになっている。そして、仕立屋さんの高齢化がひどい。若い職人さん達は、仕立物を縫っているよりも、他業種の気楽なパートに出た方が収入が良かったりするので、どんどんこの仕事から離れていってしまうのだ。
それは、仕立直しや部分的な直しが出来る悉皆(しっかい)職人が減っていくということになり、頼みたくても頼めない状況に陥る。もし、受けてくれる悉皆職人さんがいたとしても、高い仕立代金になり、ますますリフォーム等が難しくなる。当店は、幸いにもまだしばらくは大丈夫だが、10年後、20年後のことを考えると、お客様からの注文は受けられなくなってしまうかもしれないと心配になってくる。
本来、着物は何度でも作り直しが出来、祖母から母、母から娘へと受け継いでいくものであった。そうすることで、物を大切にするということを子ども達に教えることもできた。
物があふれ、何でも使い捨てにする時代になってしまった。だが、現在の異常気象と同じように、いつか『しっぺ返し』を食らう時が来るだろう・・・そう思う。

ページの頭に戻る