第804号 2014年4月11日「番頭 No.4」

猪子石店を出店し、番頭夫婦は、新しい店作りで忙しかった。『自分の店が黒字化するまでは遊ばない』と、休日前にしていたマージャンも我慢して頑張った。その甲斐あって、一年後には、黒字化させた。
私たちのほうは、不良在庫は溜まったが、次第に、正直屋の客層がわかってきた。私が奉公していた店は、高級呉服を扱う店で、並べている商品が、正直屋とはまったく違っていた。番頭は、口に出しては言わなかったが、私の思うとおりにやらせてみて、いろいろな経験をさせたかったのだろう。荒療治ではあったが、あの時の仕入れの失敗がなかったら、店の違いを体感することなど出来なかったと思う。その後は、正直屋でも、高額な品が少しずつ売れるようになった。
きものの知識や情報は、いろいろなセミナーに参加することで学んだ。普段は、仕入れ問屋の人たちから教わった。初めは、番頭に付いて仕入れをし、マージャンもしていた。しかし、同じところで情報取りをしても意味がない。正直屋の番頭たちは、飲んでもせいぜいビール1本程度で、それ以上飲む人はいなかった。私は、酒の席の接待係をしたりして、情報通の仕入方との交流を深めていった。

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