第704号 2013年3月12日「御用聞き」

私も、40歳代の頃までは運転が出来た。現在は、一人で営業に行くことが出来なくなったので、顧客訪問をしても、世間話をして時間つぶしをするということは少なくなった。
正直屋も、振袖中心の販売店になり、カジュアル物の販売が少なくなった。着物好きの方は、シミ抜きや洗い張りを出される。そんな方々は、お茶が好きだったり、お年寄りの方も多かった。世間話もよくした。招待旅行などもやっていたから、その前後は、その話題も多かった。特に着物好きのお客様は紬を好まれた。塩沢紬の好きな方があり、その方は、単衣物の白地を何枚も購入された。『シボの感触がいい』と言っておられた。そんなお客様は、着物以外はほとんどデパートの外商を利用しておられた。着物の自慢話もよく聞いた。当店で扱っていない商品ばかりだった。大島紬を仕入れるようになったのも、昭和55年前後からだった。それまでは、高額で当店では売れなかった。バブル経済の時期と重なり、徐々に売れるようになった。観劇券のプレゼントなどもしていたので、着物を着て芝居見物にも行かれた。
現在の着物好きの方というのは、何か習い事をしている人くらいになった。しかし、そういう方ばかりでもない。お茶をやっておられるのだが、初釜の時とか、特別な行事の時にしか着用されないという方もある。着慣れていないから、本番の時に粗相をされた先生もあった。ばつが悪かったろうに・・・。こっそり我々御用聞きに預けた。
一人で営業していると、その家の表も裏もよくわかった。今考えてみると、恐ろしい仕事だ。だが、相談相手になれるくらい信用されていたのだ。気づかされることが多い。

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