第944号 2019年11月20日「柄染め」

別誂え染めで一風を成した京都のH社が廃業し、それを受け継いで見本帳を流し、商いを続けてきた店が、令和1年末をもって柄染めをやめるとのこと。悉皆業で中小の呉服店は商いを続けている。その商いの中で、結び糸の販売から柄染に至る商い、また柄染の染替えの商いは、大きな売り上げの主たるものだ。
最近は、洗い張りから仕立直しをされるお客様もわずかになった。毎日着物を着用するような方は、大好きな柄の着物や、親や友人から譲り受けた思い入れのある着物を作り直しては楽しんでいる。それは着用者にとってはかけがえのない一枚なのだが、そんな楽しみを抱く人たちも少なくなった。それよりも、母の遺した着物を高く買ってくれる業者はいないか?と尋ねられることのほうが多くなった。悲しい話だ。
年配の方からかかる電話は、現在生産されていない商品のことばかり。たまに現物があって、その値段を示すと、時代背景のズレた値段を言ってくるから話にならない。そして、そんな方は、また2~3年すると同じ電話をかけてくる。
昔は、良い品がたくさんあった。そして、業者は喜んで物作りをしていた。生産して、それを喜んでくれるお客様の元に届き、楽しんで着用してくれるのだから、やはり嬉しい。そんな商品が、現在は古物商によって何百円で取引されている。
先日テレビで、中小企業は昨年46,000社が廃業したという報道があったが、我が業界の廃業も、その中に多数含まれていると思う。年老いたからという理由からのリタイアではない・・・愚痴を言っても始まらない。現在の日本は、そんな風なのだから。
さて、着物好きが着物を探す一案として、やはり着物好きの業者を探すことだ。古着の中から着られる品を探し出し、今の古着屋とは違った商いをされる店(どこかにあると思うが・・・)、よほどの目利きがそんな品を集めたら、楽しい商いになるだろう。古着でも結城、本場大島、紅型染、黄八丈、塩沢紬、小千谷紬、久米島紬、加賀友禅、有松絞りの専門店。考えただけでワクワクする。

ページの頭に戻る