第938号 2019年5月22日「シミヌキ」

着物の販売をしていて、シミヌキの苦情が多いこと、そして、その仕事に対する理解が低いことを残念に思う時がある。
昭和40~50年代の、まだ毎日着物を着用している人がいた頃は、シミヌキというのは、シミによって使用する液を使い分けるなど、特殊な知識と技術を要する仕事だということを知っているから、『少し高いな』と思っても、請求金額に対してクレームをつけてくるような人はいなかった。
平成の時代に入り、特に感じるようになったのだが、着用機会が減ったことにより、プロに近い着物好きが少なくなった。いい加減なプロが、シミの程度も調べずに、適当に安価な値段を言う。それを聞いた着物のことをよく知らない方が、着物屋に持参してみると、あまりにも請求金額が違うことにビックリして苦情となる。
クリーニング屋さんのするシミヌキと、プロの悉皆(しっかい)屋のするシミヌキとでは、まったくの別物なのだ。私は、いつも病気に例えて説明するのだが、初期の段階で病を見つけて治せば、軽い治療で済むし、完治もする。しかし、遅れれば治療も大変だ。費用も高くなる。シミは病と同じなのです。
我々着物屋は、シミヌキをする職人さんを信用して依頼するわけで、その方が請求する金額が高額であれば、それだけの理由があってのことだと思う。
日々着物を着用されている方は、簡単なシミならベンジン等を使って自分で取っていた。これまでの経験から、専門業者に頼むべきシミなのか、自分で落とせるシミなのか判断していた。もちろん失敗することもあっただろう。そんなことを繰り返しながら勉強し、安価で上手に着物を利用してきた。だから、収納にも気を配る。適度に風に当てて湿気から守る工夫もする。
『高いわねぇ!』と着物のことを知らない年配の方からの苦情は一番悲しい。着物を大切に着用してほしい。そして、着物好きの若者をもっと増やしたい。絹素材とのつきあい方を理解してもらいたい。

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