第937号 2019年4月30日「悉皆(しっかい)」

悉皆の仕事に、作り直し(リフォーム)があります。
単衣(ひとえ)を袷(あわせ)にしたり、サイズを変えたり、表で使用してしていた生地を洗い張り後は裏にしたり、上前で使用していた生地を下前にしたり、お父さんが着ていた着物を子ども用に仕立て直したり。そんなことが出来るのは、直線縫いだからです。
ただし、両面使用できるのは、糸を染めてから(先染め)織った品、つまり紬(つむぎ)と呼ばれる製品です。普段着とされてきた品ですから、丈夫でなくてはいけません。だから平織で織られています。天然染料を使用したり、耐久性を高めるために糸を泥につけたり撚糸にしたり、産地ごとに工夫して作られてきました。
日本人が、普段着物を着ない洋風化した生活に変わっていった現代でも、伝統的工芸品として守り作られ続けている産地もあれば、もう作るのをやめてしまった産地もあります。また、趣味で作っている人があって、少量ながら生産されている産地もあります。
このように試行錯誤を重ねて作られてきた品が、悲しいことに、今や日本人の各家庭の箪笥(たんす)の中で、ただ眠っているのです。金額にしたら何十兆円もの箪笥在庫となってしまっているのです。そして、それを安価な値段で処分している日本人がたくさんいます。本場結城紬などは、風合いが綿によく似ているので、譲り渡す人にきちんと説明しておかないと、高価なものとは知らずに、着用もされないで処分されてしまいます。
貧しかった日本人が考えて作り出した着物が、当時は何度も作り直して着用されてきたのに、裕福になった今では、その価値も知らないで平気で処分されていく。着物の欠点は、直線縫いであるがゆえ、上手に着用するには着慣れなければいけないというところです。これさえ克服すれば、どんなところに着て行っても、褒められることはあっても貶(けな)されることはないでしょう。
今日で平成が終わります。来る令和では、もっと着物を楽しみましょう。昔から受け継がれてきた日本人の財産です。

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