第660号 2012年9月14日「着重ね」

私の独断と偏見で言わせてもらえば、きもの業界のトップは『永遠の着物バカ人間』であってほしいと願う。
日本の着物文化の歴史を遡(さかのぼ)れば、着物を着用してきた期間は洋服よりもずっと長い。いくら温暖化が進んだといっても、冬がなくなったわけではなく、日本には昔からの四季があり、『着重ね』文化は相変わらず残っていると思う。
確かに現代は、夏はクーラーをかけ、冬は暖房を入れることで、昔ほどの着重ねをする習慣はなくなった。しかし、冬の寒い時に、外出することがあれば、ロングではなくても七分丈のコートを羽織ることはある。暖かい家から車に乗り、暖かい所へ行く、少しの寒い時間しか外にいないからというのなら別だが、普段の生活を見ても、『着重ね』は必ず人々が体験していることだ。着物着用者は、すべて芸能人か有名人か?冬の寒い時でも暖かい所からは出ない人や、夏の暑い日にも外に出ない人が着用するものが着物だろうか?そうではないはずだ。
22年間毎日着物を着用していて気づいたことは、やはり暑い夏には素材を考えて涼しくなる工夫をし、冬の寒い日には重ね着をし、綿入れを着ることで身体を守り着物文化を守る。長年先輩達が行ってきた生活習慣が、温暖化だからといって多少暑い日が続いたくらいで変わるものではないと思う。
毎日着物を着用されている人が着物販売を生業(なりわい)としている人と会話した折に、本当に着物が好きなんだなという印象を抱いていだだけたら『着物バカ』としてはうれしい。毎日着用するには根底に便利を超えた『当たり前の着物慣れ』があるのではないかと思う。

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