第924号 2018年3月26日「体感」

普段何気なく使っているものの中にも、日本らしさを感じるものはたくさんある。例えば、茶碗や湯飲み。カップには取っ手が付いているが、これらには無い。器に直接触れて、その熱かったり冷たかったりの体感温度で、よりおいしく感じることもある。
四季の器は、その見た目で料理を美味しく見せる効果があるが、料理の温度も和食のポイントのひとつだ。温かくて美味しい、冷たくて美味しい、と無意識に口から出てしまう。視覚、嗅覚、味覚と同じように、体で感じる感覚は、触れることで反応する。
暑い夏は、サラッとした麻の繊維を好み、寒い冬は、暖かい毛布や柔らかなムートンのシーツなどを利用する。季節にあわせた素材を選ぶことにより、温度調整はもちろんのこと、体に感じる温度も違ってくる。
暑さをしのぐのに、今はエアコンがあるが、昔は団扇(うちわ)で扇(あお)ぐくらいしかなかった。扇いだところで、夏はやはり暑い。扇いでもらえば多少は涼しいが、日本人は涼しさを感じるように工夫をして、それを楽しんだ。風鈴、流しそうめん、すだれ、扇子、麻のシーツ、水の流れる音を聞いたり爽やかな風にあたる。
着物用語で『風合い』という言葉がある。触れた時の感触が、『優しく』『やわらかく』『サラッと』『あたたかく』という感じを抱く言葉だと思う。天然繊維なら、特にそう感じるだろう。
以前、日本人は『おんぶ』や『抱っこ』が一番上手な民族だという話を聞いたことがある。子育てには、スキンシップが一番必要なことだと思う。温もりは、一生涯忘れない親の愛情だ。

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