第856号 2015年2月3日「着重ね No.2」

今でも田舎に行けば見られるが、日本の家屋はすべて土壁だった。竹を編み、土を混ぜて壁を作った。専門家ではないので、どんな種類の土かは知らないが、二度ほど塗り重ねて乾かした後、最後の上塗りをする。
日本には四季があり、暑かったり寒かったり、湿気の多い時季もあれば、乾燥する時季もある。土壁は、その温度や湿度の調節に役立つのだ。そして、障子紙や襖(ふすま)も、それを助ける役目をした。
昨年、世界文化遺産に和紙が認定された。紙も土壁と同様、日本家屋にはなくてはならない存在だったが、まるでその役目を終えたかのように、現在の建築物に利用されることは少なくなった。
箪笥(たんす)も減り、作り付け家具が多くなった。確かに部屋は広々とするが、裏側では結露が発生する。特に、着物にとって湿気は大敵。カビを防ぐ対策が必要となる。その点、桐箪笥は裏側にも下部にも空間ができ、湿気対策にはとても良い。
さて、日本人は、日本の四季を乗り切るため、建築物と同じように、着物にもいろいろと工夫をして着用してきた。夏はさらっとした麻織物、寒くなるとウール素材に替えた。(これは、綿・ウール・絹が輸入されるようになった四百年くらい前から始まったことだが。)
日本は重ね着文化と言われる。冷暖房のなかった時代は、その季節に対応するべく着る物を替えて生活した。寒ければたくさん着る。暑ければ裸に近い状態で過ごした。現代人の体格とは異なり、昔の人は小柄であったが、機械に頼らない日々の暮らしは、病に強い丈夫な身体を作ったに違いない。
人間は、便利さは手に入れたが、その代わりに弱い身体になってしまった。着重ねの生活に戻そう!・・・なかなかそんなわけにはいかない。時には、そんな生活を体験するのも、身体のためには良いかもしれない。

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