第815号 2014年5月23日「番頭 No.5」

たくさんの人の前で挨拶することは、恥ずかしいし難しい。我が家系は、どうもダメなようで、親父も下手だったし、私も苦手だ。若い人でも、上手に挨拶をされる方があるが、そんな人を、うらやましく思う。
人前で話すことは、25歳の時、店主催の招待旅行が初めてだった。250人から300人の前で紹介され、挨拶をしたが、足は震えて、顔は真っ赤だったと思う。酒でも飲んでいればよかったのだろうが、そんなわけにもいかない。こういうことは、場慣れするしかないのだ。
宴会は、やはり楽しむもの。うちの番頭たちの中にも、天性なのか、司会進行や場を盛り上げることが上手い人がいた。昔は、今のように、カラオケの練習をされている人もなかった。
上手も下手も恥ずかしいも、言っていられない。35年前の宴会では、まずは、従業員が歌い、それなりに場を盛り上げた。そうしてから、お客様にお願いに回っては、何とか歌っていただいた。
初めは、その盛り上げるのが上手い番頭が宴会係をやっていたが、次第に私がやるようになっていた。下手ながらも、酒が入ると、場は盛り上がった。カラオケも、順番待ちが出るようになり、そのうちに、一番だけしか歌っていただけないような状態になった。
ある食事会でのこと、別の番頭が、進行係にいろいろと注文ばかりつけてくる。一緒に進行係をしていた番頭と示し合わせて、最後の締めの挨拶を、その番頭にしてもらうことにした。
『さあ、今夜の宴会も、これでお開き!最後に、〇〇店長に挨拶をお願いします。』
さて、どうなるか。古くからのお客様は、その番頭が、人前で挨拶など一度もしたことがないことを知っていた。皆の注目の的でした。
その番頭は、ツカツカと壇上に上がり、一声、『バンザーイ!』
そして、またツカツカと戻っていったのでした。爆笑と拍手の嵐でした。

ページの頭に戻る