第803号 2014年4月8日「番頭 No.3」

奉公から戻って、店の仕事をするようになり、仕入れのために、問屋さんへ行くようになった。
3年間奉公してきた私に対し、一番番頭が、『商品のこともわかっているだろうから、たくさん仕入れなさい。』と言ってきた。そう言われても、まだ自分の客はいないわけで、誰に売るという当てもない。商品知識といっても、神戸・大阪にいた頃に、よく売れていた品を多少知っているだけで、商品の単価も知らない。とりあえず、自分の好みの柄を仕入れた。そして、同行するたび仕入れた。単価は番頭が決めてくれるので、自分のすることは、柄選びだけだった。
自分の選んだ商品を、店に並べた。広告を見て来店してきたお客様に勧めてみるのだが、私が仕入れた品は売れない。番頭の仕入れた品は、すぐに売れていく。『なぜなんだ?』 わからなかった。
番頭に付いて、お客様廻りもした。『おぼっちゃん』だから、頭を下げているだけで、会話もできない。挨拶だけでは商品は売れない。『運転手』をしばらくやった。このままでは、人形と同じだ。自分の客を獲得することも、仕入れの単価も勉強できないことがわかってきた。
番頭から、『俺は、商品単価を勉強するために、休日は、必ずデパート巡りをした。』という話を聞き、自分もしてみた。正直屋に戻って、5年くらい経っていた。店のチラシと名簿を持って、新規廻りをした。嫁ももらった。
本店の店長をしていた番頭夫婦は、私が戻った2年後には、新しい店の店長となり、私たちと同様、新規廻りをした。本店の客はほとんど置いて、新しい店の客作りをした。私たち夫婦は、引き継いだお客様を廻りながら、新規廻りもした。番頭曰く、『顧客廻りをすれば、番頭たちが作ってきた売上の7割は確保できる。あとは新規を作ればよい。楽なもんだ。』 しかし、一年生の私と番頭とでは、天と地ほどの開きがあった。

ページの頭に戻る