第797号 2014年3月14日「着物昔話」

797『着物を裁つ』と言っても、わからない人のほうが多いだろう。
昔は、現在のように着物=(イコール)式服ではなかった。
ウールや銘仙(めいせん)、小紋、紬という絵羽仕立てになっていない総柄、つまり2尺ごとに同じ柄が連続している反物を仕立てては、普段着として着用していた。約76cmごとに同じ柄が現れるのだが、その柄が横並びにならないよう、特に前身頃には一番注意を払う。衽(おくみ)と前巾柄を、適当な間隔に配置する仕事なのだ。
一反の総尺の中には、キズが隠れていたり、身長の高い方、総尺自体が短くなってしまった洗い張りの品などもあり、難しいものだと担当者は一日中考え込んでいたものだ。
当時の仕立物係は祖母だった。その難しい柄合わせも祖母がしていたので、仕立屋さんは、言われるままに仕立てればいいのだから、柄の出具合で苦情を受けることもない。これは楽だというこで、好んで仕立物を受けてくれた。
大相撲で、贔屓(ひいき)衆に配られる浴衣には、力士の名前の染が入っており、柄合わせを間違えて、その名前が逆さまになったりすれば縁起が悪い。そんなことのないよう苦労して柄合わせをして裁っていた。
現在は、すべて仕立屋さん任せになってしまった。

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