第685号 2012年12月18日「変わり目 No.2」

ずっとお祖母ちゃん子で育った。何でも祖母に相談してきた。
大学卒業後の丁稚(でっち)奉公から帰ってきて、正直屋の手伝いを始めた。当時、祖母は仕立物の係をしていた。簡単に言うと、仕立物を仕立屋さんに渡し、仕上がってきたら、それをまた検品し、お客様に渡すまでが仕事だ。責任ある重要な仕事だ。社長も、それまでの番頭も、仕立物のことはすべて祖母任せだったし、お客様からのクレームへの対応や特急品のチェックなど、裏方である悉皆(しっかい)等に関することはすべて祖母がこなしていた。
私が26歳を超えた頃、本店の店長を任された。ある時、着物好きなお客様から仕立のクレームがあった。それを祖母に話したところ、『これなら十分いいから、これで納めればいい!』と言われた。私は、『今日、納品した時に苦情を言われたんだ。』と反論した。店長の役目として、チェック係がチェックできないのなら仕事にならないと考え、祖母には係を降りてもらった。初めての祖母への反抗だった。次の日からは、女房がその大変な仕事を引き継ぐことになった。祖母の仕事はなくなった。遅かれ早かれ、私にもそんなことを言われる時が来るだろう。

ページの頭に戻る